通訳者は資料がないととにかく焦ります。拠り所にするものがないと、話が理解出来ないんじゃないか、ついていけないんじゃないか、と思うからです。資料がない時は、ベストエフォートでお願いします、ということを言われたりします。
通訳学校で言えば、次の授業のパワポ資料がないようなものだと思います。
でも今はトピックさえ分かれば調べようと思えば調べる手段は結構あります。トピックさえも知らされないということもありますが、出席者の顔ぶれを見て、あたりをつけて調べるしかありません。
何度かお世話になった企業の会議でも資料がないと言われることはよくあります。
資料がないと通訳は大変なことになるかというと、そんなことはありません。事柄の性質上、発注してきたクライアントが資料を共有してくれないことは普通にあります。(NDA署名してもいいから資料はくれ、という感じですが)
でもたぶん大事なのは出席者の発言を聞きながら、この人は何を言いたいのか、を諦めずにくみ取ることだと思います。そしてどこまでいっても、聞いている人にとってわかりやすい通訳をしようという意識。
何を話そうとしているかわからない環境で通訳しなければいけないのは難儀ですが、その不安さが伝わるようなモソモソとした話し方や、文末が不安を匂わせる全部尻上がりのイントネーションは、気をつけたいところです。私も昔通訳学校のクラスでやってしまっていました。わかるところまではちゃんと話すけれど、わからない部分はごにょごにょっと早口で済ます、ということ。でもこれって保身でしかなくて、聞いている人のことを思ったら出来ないんですよね。
だから不安でも何の話だかわからなくても、聞こえてきた通りに、聞こえてきたように、訳す。
コロナ時代になってお客様と会うことは少なくなりました。
teamsやzoomを介して通訳することが増え、通訳を聞いている人はinterpreter1、interpreter2という参加者としてしか認識されない状況です。それでも声で判別して次もこの人で、と言ってくださるお客様はいらっしゃいます。だから自分がしている通訳は誰が聞いているかどうせわからない、何の話かよくわからないし、と資料がなくても諦めずに、真剣に仕事をすることが次につながっていくんだと思います。
この辺の真剣に努力し取り組むことの大切さは通訳学校にいても同じだと思います。100%やることをやってはじめて、やっと次があるのかな、と。