同時通訳はスピードとコンパクトさ、そして後手にまわらないことが大事です。そしてそれは結構ボクシングにも似ていると以前書きました。
今回はコンパクトさについて。
同時通訳でコンパクト、というのは文章の始まりから句点まで(マルまで)が短いこと。
同時通訳では聞こえてきた順にしかスピーカーの言いたいことは見えてこないので、普通に英語の文章を作るときのようにはいきません。同時通訳そのものやトピックに慣れ親しんでいる場合は、少し待って普通の英語の文章のように整えて出すことも可能です。
でも最初からそれを綺麗に文章を作ろうとしてはいけない。
なぜか?
自分の作っていた文章通りにスピーカーが話してくれて必要な単語が収まることは少ないからです。そうすると、作り始めていた文章と、途中からスピーカーに引きずられて作った文章が合致しないのです。
だから、同時通訳は聞こえてきた順番で、理解できる塊ごとに文章を作っていき完結させる。そうすると、どのような文章が来ても大抵は対応できます。
日本語と同じ品詞で、同じ構造の文章を作ろうとしても、日本語のような英語になってしまいます。
これは実際の例です。
昨日、プーチン大統領が、ベラルーシとの共同記者会見で、すべての目的が達成されるまで軍事作戦は終わらないと述べ、侵略が長期化する見通しとなりました。
これを頭から聞いていると、まず「プーチン大統領が」。
『プーチンが何をしたのか分からないから文章は作れないな。。とりあえずもう少し聞こう。。』
何も言わずに待っていると、「~記者会見で、」が出てくる。
『ここをまず訳してみるか』
@ the joint press conference with Beralus
英語を話している間に、「すべての目的が達成されるまで」と始まる。
ここまで来ると、もし、背景知識がない場合、『プーチンが言ったの?』『誰が達成するの??』などなど考え始めてしまい、『もう待てない!えいやッ』と、
til all objectives are met
と訳すとします。
これを英語だけ聞いている人は、
At the joint press conference with Beralus, til all objectives are met...
と聞こえてくるわけです。聞いている人は、意味の通る文章になっていないので、スッと理解できません。
もう一度例文。
昨日、プーチン大統領が、ベラルーシとの共同記者会見で、すべての目的が達成されるまで軍事作戦は終わらないと述べ、侵略が長期化する見通しとなりました。
昨日はすぐに出します。文脈もないですから、頭にとめておく必要はありません。
「プーチン大統領が~記者会見で」を聞いた瞬間に、プーチンとルカシェンコ大統領が二国の国旗を背にしてpodiumに向かって話している姿が浮かびます。
ここで『プーチンはベラルーシと記者会見した』と言ってしまうのです。
President Putin held the joint press conference with Beralus
その間に次が聞こえてきます。
「すべての目的が達成されるまで軍事作戦は終わらないと述べ」
主語はプーチンなのでラッキー、そのまま『そして述べた。すべての~終わらない』
held に続いて and said that their operation wouldn't end till all objectives were met
つなげると、
Yesterday President Putin held the joint press conference with Beralus /and said that their operation wouldn't end till all objectives were met./
ハイフンごとに文章がコンパクトです。
通訳者も頭にとめておく文章が少ないから楽です。楽ですから力まないで済みます。
自分の作文能力を超えて(長く作りすぎる)、もしくは、逐次通訳のように同時通訳しようとすると、頭にとどめておく情報が多くなり苦しくなる。
長いものには巻かれろと言いますが、同時通訳は流れに逆らわず、聞いたら後回しにせず順番に処理していくことが、聞いている方も、通訳する方も楽なんじゃないかなーと思います。